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哀しい女 |
□投稿者/ bonito -(2003/08/19(Tue) 14:15:41)
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S子の母親が亡くなった、病気のデパートのような人だったが、 最終的には肝臓がどうにかしての死だったらしい。 告別式のS子はひどくやつれた顔で参列した人の同情をひいた。 彼女は「一人になってしまった」と泣き崩れた。 もちろん彼女には2度目の亭主と3人の子供と2人の孫とそして、 幾人かの兄弟姉妹と大勢の親族がいる。 棺のまわりをとりかこんだ彼らも、彼女と同質のDNAの持ち主 らしく、口々に自分一人の悲しみと孤独を訴え、人目も人の気持ち もはばからず泣き続けた。 哀しい一族なんだろう。
さて、その告別式を半月程さかのぼった頃に、S子の亭主の浮気が 発覚するという事件があった。 彼女は亭主の勤め先に乗り込み、亭主の浮気相手をつきとめ、呼び出し 「どろぼう猫」呼ばわりをし、亭主と別れる約束をとりつけた。 亭主はもう仕事場に行けないと嘆いたが、自分のまいた種である、 同情するには値しないだろう。 ただその2晩前に、彼女は私にこう言ってしおらしく泣いていたんだ。 「私たちの愛も終わりかも知れない…」 「今までずいぶんがんばってきたけど…」 多分哀しい女なんだろう。
母親の告別式から2週間後、確かな筋からS子の噂を耳にした。 例の浮気相手の女から数十万の慰謝料を取り立てたらしい。 そしてその事は事前に亭主にも告げられていて「今日取って来る」 「ああ…」というような会話があったらしい。
新手の美人局のような展開である。 哀しい女といえば哀しい女である。
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